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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)303号 判決 1960年2月19日

主文

原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人三宅岩之助の上告理由第二点について。

本件において、民法一一〇条を適用し、上告人の保証契約上の責任を肯定するためには、先ず、上告人の長男篤が上告人を代理して少くともなんらかの法律行為をなす権限を有していたことを判示しなければならない。しかるに、原審がるる認定した事実のうち、篤の代理権に関する部分は、上告人は、勧誘外交員を使用して一般人を勧誘し金員の借入をしていた訴外株式会社東洋商工金融本社の勧誘員となつたが、その勧誘行為は健康上自らこれをなさず、事実上長男篤をして一切これに当らせて来たという点だけであるにかかわらず、原審は、篤の借入金勧誘行為は篤が上告人から与えられた代理権限に基きこれをなしたものであることは明らかである旨判示しているのである。しかしながら、勧誘それ自体は、論旨の指摘するごとく、事実行為であつて法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、右事実をもつて直ちに篤が上告人を代理する権限を有していたものということはできない筋合であつて、原判決は法令の解釈を誤つたか又は審理不尽理由不備の違法があり、論旨は理由があるものといわなければならない。よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべく、民訴四〇七条一項に従い、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官藤田八郎の少数意見を除きその余の裁判官一致の意見によるものである。

藤田裁判官の少数意見は次のとおりである。

原判決の確定するところによれば、上告人(被告、被控訴人)は居町地方で相当の財産を有し、昭和二八年三月頃株式会社東洋商工金融本社(一般人を勧誘して銀行などよりも利回りのよい利息で金員の借入をなし、之を資金として高利にて貸金をする業を営む会社)に金二〇万円を預金し、同会社の勧誘員となつたが、(同年七月頃同会社須田出張所長となる)その勧誘行為は健康上自ら之をすることができず、事実上、勧誘員としての業務は、その長男である篤をして代理して一切之に当らせて来た。本件借入契約も、右篤が父たる上告人の代理として被上告人(原告、控訴人)に勧誘した結果成立したものであるというのである。

そして右借入金勧誘行為それ自体は事実上の行為であつて法律行為ということのできないことは多数意見の説示するとおりであり、右篤が父たる上告人から任されていた上告人の勧誘員としての一切の業務という中に法律行為たる行為が包含されていたかどうかについては原判決の確定しないところであるけれども、如上原判決の認定した限度においても、自分は、民法一一〇条表見代理の基礎たる代理行為たるに十分であると信ずる。けだし、同条表見代理の基礎たる代理行為は必ずしも厳格な意味における法律行為に限定するの要はないと信ずるからである(昭和三一年(オ)第四一〇号、同三四年七月二四日第二小法廷判決民集一三巻一一七六頁中藤田裁判官の少数意見参照)。であるから、右被上告人からの借入契約に際し、右篤が上告人を代理して本件保証契約をした以上、被上告人側において右篤の代理権を信ずべき正当の事由があるかぎり、-そして如上の事実関係だけからみても、被上告人が篤の代理権の存在を信ずるのはむりからぬところと思われるのであるが-右保証契約については民法一一〇条の適用ありとした原判決は正当であると思料する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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